2020年4月29日、今日は山口市の生んだ詩人 中原中也の生誕記念日で、例年 中原中也記念館の前庭で「空の下の朗読会」が盛大に開催されるところであるが、今年は新型コロナウイルスのために中止となった。
その代り「#中也Web朗読会」という新しい記念事業が開催された。
私が選んだ中原中也の詩は「一つのメルヘン」である。自分はこの詩を日本語と英語で朗読することにする。
残念ながら、自分の技量不足でtwiiter「#中也 web 朗読会」にiPhoneで撮った動画をアプロードすることが出来ず、ようやくこのページに紹介することが出来るようになった。
次にその原稿とその朗読を紹介する。
一つのメルヘン One Fairy Tale
中原中也 Chuya Nakahara
秋の夜は、はるかの彼方に、 At night in Autumn. Far faraway
小石ばかりの、河原があって、 There is a stony river-bed
それに陽は、さらさらと Against the river-bed the sun is shining
さらさらと射しているのでありました。 The sun is shining
with a pleasant sound Sara-sara
陽といっても、まるで硅石(けいせき)か何かのようで、
The sun, which is something like silica
非常な個体の粉末のようで、 Something like the powder of a solid body
さればこそ、さらさらと That’s why it is making a faint sound
かすかな音を立ててもいるのでした。 With a pleasant sound、Sara-sara
さて小石の上に、今しも一つの蝶がとまり Now, a butterfly is settling on a small stone
淡い、それでいてくっきりとした Which casts a shadow
影を落としているのでした。 A faint, but vivid shadow
やがてその蝶がみえなくなると、いつのまにかSoon after the butterfly disappears
今迄流れてもいなかった川床に、水は On the river-bed, where there has
been no water flowing
さらさらと、さらさらと流れているのでありました……
There has appeared a flowing river with a pleasant sound Sara-sara
翻訳:藤山 照夫 Translated by Teruo Fujiyama
中原中也の詩に興味のあるお方は、どうぞこのホームページの右側にある「最近の投稿」欄にある
「中原中也の詩を覗いてみよう!」及び「中原中也の四季の詩」をご覧ください。
その他、「国木田独歩の詩碑 山林に自由存す」や
「山を愛した詩人 串田孫一」などもありますので、どうぞごゆっくりご覧ください。
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青い蝶 A Blue Butterfly
次にヘルマン・ヘッセの詩「青い蝶」を紹介します。
この詩に出逢ったのは、つい最近のことで、JAF Mate の5月号5ページに下重暁子様の随筆「幸せってなんだろう」の冒頭に載っていました。
「一羽の小さい青い蝶が / 風に吹かれて飛んでゆく」それは全体で8行の短い詩ですが、元来 詩が好きで、短い詩や物語などを少しばかり英語に翻訳したりしている自分は、直ぐに
この「青い蝶」の虜になってしましました。
下重暁子様(以後 下重さんと呼ばせていただく)は「青い蝶」との出会いについて次のように述べておられる。
「私が愛してやまないのは「庭仕事の愉しみ」(注ーヘルマン・ヘッセ著)の中にあるこの詩である。特にしあわせがわたしに合図しながら 「きらきらちらちら消えていった」という一節だ。」
「大学時代、友人の故郷、島根県の智頭(ちづ)にある広大な庭を父君に案内されている時、池の畔(ほとり)で、小さな黄色い蝶が先に立った。その時もこの詩を思い浮かべた。
「時々心が折れそうになると、私はこの本(注ーご自身のCD付きご著書「くちずさみたくなる名詩」)を開き、「青い蝶」をくちずさむ。そうすると、一瞬目の前に小さな蝶が現れ、きらきらちらちら消えてゆく。その瞬間私は幸せの合図を知る事が出来る。
実は、このホームページの著者も、下重さんの「青い蝶をくちずさむ」に魅せられてこのページのタイトルを「好きな詩をくちずさんでみよう!と肖(あやか)らせていただいた次第である。
なお、下重さんの随筆には、可愛い青い蝶」の写真が載っていたので、その写真の掲載をJAFにお願いしたけれども、その掲載は出来ないということなので、butterfly.png(無料の写真) を掲載させていただく。
「森ふくろう@里山を歩こう」の akashizimi0119 さんから教わったのですが、次の蝶はツバメシジミだそうです。
上記「森ふくろう@里山を歩こう」の akashizimi0119 さんが、この度ホームページに綺麗な青い蝶「オオミドリシジミ」の素晴らしい写真を紹介されました。
この詩「青い蝶」は多分このような蝶ではないかと思います。そこで此処に掲載することのご了解を得ましたので、次に掲載させていただきます。温かいご高配に感謝します。
もっとご覧になりたい方は次をクリックしてください。
http://www3.plala.or.jp/asia-butterflies/satoyama0/2180-3.html
青い蝶 A Blue Butterfly
ヘルマン・ヘッセ Hermann Karl Hesse
岡田 朝雄 訳 Translated by Asao Okada
一羽の小さい青い蝶が One blue butterfly
風に吹かれて飛んでゆく Flies away blown by the wind
真珠母色のにわか雨が Light showers of pearl oyster color disappear
きらきらちらちら消えてゆく From sight glistening and sparkling
そのように一瞬きらめきながら In such a way glistening for a moment
そのように風に飛ばされて In such a way blown by the wind
しあわせがわたしに合図しながら Giving a signal to me (Winking at me)
きらきらちらちら消えていった Happiness disappears glistening, sparkling
翻訳;藤山 照夫 Translated by Teruo Fujiyama
https://youtu.be/kftj32H83g4
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蝶 A Butterfly
次に同じくヘルマン・ヘッセの詩「蝶」を紹介したい。この詩はヘルマン・ヘッセの作品を 読んでいる時、「ヘッセ」 筑摩文学大系 62 P.393 で見つけた詩である。
「青い蝶」を読んだ後だったので、その魅力は一段と増してきて、直ちに翻訳してしまった。ドイツ語からの翻訳者は尾崎喜八氏で、既にお亡くなりになっているので、お身内の石黒敦彦 様のご了解を得て、ここに掲載させていただく。
蝶 A Butterfly
ヘルマン・ヘッセ Hermann Hesse
尾崎喜八訳 Translated by Kihachi Ozaki
「ヘッセ」 筑摩文学大系 62 P.393
或る悲しみに見舞われていた時のことだった、It was time when I was overcome
with deep sorrow
私は野中を歩きながら While I was walking in the field
一羽の蝶を目撃した。 I found a butterfly
蝶はあざやかな白と暗紅色とに彩られて、 It was colored in vivid white and
dark red
青い風の中をひらひらと飛んでいた。 The butterfly was fluttering
in blue wind
おお、お前だ!子供の頃、 Oh, it’s You! In my boyhood,
世界がまだあんなにも朝のように晴ればれと、 When the world was so fair
and fine like a fine morning
まだあんなにも天に近いものに見えた頃、 When it still looked so near
to the heavens
その美しいつばさをひろげているお前を It was the last chance when I saw
私の見たのが最後だった。 you spread your beautiful wings
楽園から私に来たお前、 You, who have flown from the paradise
色も綾になよなよと風に吹かれて行く者よ。 Who are blown away feebly
in very sweet color
今お前の深い神々しいかがやきを眼の前に、 Now, your divine glare before my eyes
なんと私が他所者(よそもの)らしく又羞恥に満たされて、 Being in deep shame
like a total stranger
内気な目つきで立っていなかればならないこと Why should I have to stand up
だろう! here with bashful eyes?
白と赤との蝶は The white and red butterfly
野のほうへと吹かれて行った。 Was blown to the field by the wind
そして私は夢見ごこちに歩を進めたが、 And I kept on walking as if I were
dreaming
その私に、楽園からの Then a silent glare from
ひとつのしずかなかがやきが残されていた The paradise was left for me
翻訳:藤山 照夫 Translated by Teruo Fujiyama
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青い空に浮かぶ白い雲に呼びかける詩は、色々な場面で詠われている。
山口県の瀬戸内側に位置する田布施町に縁(ゆかり)の深い国木田独歩は、高塔山(独歩はこの山のことを「高叫山」と呼んでいる)の頂上から次のように詠っている。
雲やどこへいく Oh, Clouds! Where are you going?
お前のあしははやいな You are very fleet of foot.
箕山へいくか/琴石へいくか Are you going toward Mt.Miyama or Mt.Kotoishi?
翻訳:藤山 照夫 Translated by Teruo Fujiyama
(「田布施町と国木田独歩」https://www.fujiyama-jp.net/wp/?p=2443)
また、2020年7月号の雑誌「サライ」(小学館)の「今日のことば」
https://serai.jp/hobby/267854 で、矢島裕紀彦氏は山村暮鳥の詩「雲」
を次の紹介しておられる。(小学館「サライ」編集部の温かいご了解を得ている)
おうい雲よ/ゆうゆうと Oh, Clouds! How comfortably you float!
馬鹿にのんきさうぢやないか How happy-go-lucky you look!
どこまでゆくんだ How far are you going from now?
ずつと磐城平の方までゆくんか Are you going as far as Iwaki-taira Plateau?
翻訳:藤山照夫 Translated by Teruo Fujiyama
また、上記の詩「青い蝶」や「蝶」を詠んだヘルマン・ヘッセも「白い雲」という詩を詠んでいる。
白い雲 White Clouds
ヘルマン・ヘッセ Hermann Hesse
尾崎喜八訳 Translated by Kihachi Ozaki
「ヘッセ詩集」より
おお、見よ、彼らは又しても Oh, Look! The White Clouds are
忘れられた美しい歌の Floating in the blue sky again,
ひそやかなしらべのように Like a stealthy and silent tune
青い大空をただよって行く! Of sweet song forgotten!
長い旅路でさすらいの Only the person that has made a long journey
ありとある苦しみや喜びを Wandering and that has experienced
味わい知った心でなければ Every kind of suffering and delight
彼らを理解することはできない。 Would be able to understand the White Clouds
太陽や、海や、風のような、 I love what is white and wayward
白いもの、気ままなものを私は愛する。Such as the Sun, the sea, and the wind.
なぜならば彼らは家無き者の Because they are the sister and angel
姉妹でもあれば天使でもあるのだから。Of the person who has no home.
翻訳:藤山 照夫 Translated by Teruo Fujiyama
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例年4月29日に中原中也記念館前提で開催される「空の下の朗読会」が、 今年は新型コロウイルスの影響で中止になり、「#中也web朗読会」になった。
その代わり、今年は11月7日に中原中也記念館前庭で「空の下の朗読会」が開催され、同時に「#中也web朗読会2020」が開催される。
「空の下の朗読会」では著作権使用料の関係で、ウェブサイトに公開できない、長田弘氏の詩「それぞれの心の中の川」を朗読する予定である。
ここに紹介する中原中也の詩「漂々と口笛を吹いて」は11月7日当日、開催の
「#中也web朗読会2020」に掲載した詩である。
漂々と口笛吹いて(朗読) Whistling with a Light Heart
中原中也 Chuya Nakahara
漂々(ひょうひょう)と 口笛吹いて 地平の辺(べ)Whistling with a light heart
歩き廻(まわ)るは…… Walking around across the ground
一枝(ひとえ)の ポプラを肩に ゆさゆさと Carrying a branch of poplar
on the shoulder
葉を翻(ひるが)えし 歩き廻るは Swinging back and forth, fluttering the leaves
褐色(かちいろ)の 海賊帽子(かいぞくぼうし) ひょろひょろの
Walking around across the ground Putting on a brown pirate cap
ズボンを穿(は)いて 地平の辺(べ) Wearing a slender pair of trousers
森のこちらを すれすれに This side of the woods, close to it
目立たぬように 歩いているのは Walking inconspicuously
あれは なんだ? あれは なんだ? What is that? What is that?
あれは 単なる呑気者(のんきもの)か? Is that just an easy-going fellow?
それともあれは 横著者(おうちゃくもの)か?Or is that a sly dog (naughty boy)?
あれは なんだ? あれは なんだ? What is that? What is that?
地平のあたりを口笛吹いて Walking around across the ground
ああして呑気に歩いてゆくのは Walking around free from care (leisurely)
ポプラを肩に葉を翻えし Carrying a branch of poplar on the shoulder
ああして呑気に歩いてゆくのは Walking around free from care (leisurely)
弱げにみえて横著そうで Although he looks feeble and impudent
さりとて別に悪意もないのは Yet he bears no malice toward us
あれはサ 秋サ ただなんとなく That is Autumn. Without knowing why
おまえの 意欲を 嗤(わら)いに 来たのサHe has come here to laugh at your will
あんまり あんまり ただなんとなく That ‘s too much, too much. Without knowing why
嗤(わら)いに 来たのサ おまえの 意欲を He has come here to laugh at your will
嗤(わら)うことさえよしてもいいと Soon at the time
やがてもあいつが思う頃には When he judges he may stop laughing
嗤(わら)うことさえよしてしまえと When he judges to stop even laughing
やがてもあいつがひきとるときには Soon when he withdraws from here
冬が来るのサ 冬が 冬が Winter will come. Winter! Winter!
野分(のわき)の 色の 冬が 来るのサ Winter with the color of
wintry blast will come (for sure)
翻訳:藤山 照夫 Translated by Teruo Fujiyama
最後まで見てくださいまして有難うございます。何かお気づきの点がありましたら、
どうぞ下記メールアドレスへお知らせください。
email:tfujisan786@mx5.tiki.ne.jp
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