北岳、間ノ岳の想い出

 私の属している「のぞみ山岳会」は平成13年7月19日から22日にかけて、22名で南アルプス3000m級の山々への登頂を果たした。19日は徳山駅から特急寝台車「あさかぜ」で静岡まで、それから「富士」に乗り継いで、身延山で下車。身延山からタクシーに分乗して、未舗装で狭いトンネルが多い南アルプス街道を広河原まで走る。

 広河原の登山口を正午少し前に出発した一行は、大樺沢二股まで途中の小休憩を入れて標準の2時間30分で踏破した。そこから本日宿泊予定の肩の小屋(3000m)まで3時間。肩の小屋に到着したのは5時30分であった。途中、白根御池コース分岐点を過ぎた頃から小雨になり、傘や雨具をつけての登山になった。山小屋は夏休み入りと連休前だけに満員である。しかし、これも山小屋利用の楽しみの一つである。

 3日目の20日は5時30分に朝食。天気は申し分なし。南東に富士山が頭を見せる。北岳登山の目標の一つは、北岳にしかないキタダケソウを自分の目で確かめることであった。しかし登山の途中では発見できなかった。肩の小屋のホームページには「キタダケソウが見頃です。今年は7月10日頃までが見頃です」と書いてあった。管理人さんに尋ねると、「山小屋の前の花壇に咲いている」とのこと。早速、本物のキタダケソウを見に行き、写真を撮ることができた。

 6時8分、肩の小屋を出発した一行は、高山植物や富士山をカメラに納めながら北岳山頂を目指す。6時50分に山頂到着。生憎、ガスがかかっているので、写真はパッとしない。しかし、パーテイ全員の記念写真を撮り、全員無事登頂を祝して万歳三唱をする。

 今日は、これから北岳山荘(2900m)まで下山して荷物を預け、間ノ岳まで往復するだけなので、ゆっくりと自然観察をしながらトレッキングができる。北岳頂上を出発すると八本歯のコルへの分岐点に7時28分、更に下ると同じく八本歯のコルへのトラバース分岐点に7時51分に差し掛かる。北岳山荘到着は8時13分であった。

 ここで暫く休憩や軽い飲食ををした後、ザックを山荘のロビーに置かせてもらって、サブザックで海抜3000mのアップダウンを歩く。涼しい天然クーラー付きのトレッキングコースで高山植物の名前を調べたり、美しい花をカメラに納めたりしながら、中白根山(3052m)に到着したのは9時38分であった。ここで5分ばかりの休憩をとる。

 10時12分に目標の一つ手前のピークに到着。これより、なだらかなアップダウンの稜線を南下して間ノ岳だけの麓に10時46分に到着する。そこからやく100mの標高差をを登って、11時8分に間ノ岳山頂に到着。そこで12時13分まで、ゆっくり周囲の景色を楽しみながら昼食、休憩をする。
 昼食後は午前中、南下したコースを逆に北岳山荘まで引き返すだけである。正面、北の方角には今朝登った北岳、その背後には甲斐駒ヶ岳、左側前方には仙丈ヶ岳がどっしりと座している。足元には高山植物のお花畑、気温は快適そのもので言うことはない。自然に抱かれた別天地で、ゆったりした気分に浸ることができた。通常、隊列から遅れることを心配しながらカメラを構える私たちの山の会とは雲泥の差である

 長田芳男氏は特集花の日本アルプス「特産種が彩りを添える北岳の花とお花畑をたずねて」(山と渓谷)の中で次のように指摘しているが、全く同感である。

 「夏山の最盛期には、どのコースを選んでも花はふんだんに咲いているが、花に興味がなければ、満開のお花畑の中   を歩いても、花は目に入らない。また、ハードスケジュールだと、山はつらく苦しいだけのものとなる。花を見るための山旅は、のんびり、ゆっくりが第一条件」

 のんびり、ゆっくりムードの山旅を満喫して北岳山荘に帰ったのは3時過ぎであった。ところが、充実したトレッキングで満足感に浸っていた私たちを待っていたのは、山小屋の厳しい現実であった。山小屋の混雑は分かっていたが、これほどの混雑ぶりは予想していなかった。

 予約してあったといっても、大勢の登山者を受け入れれば、一人あたりのスペースが狭くなるのは当然である。なんとか私たち22名が一列に寝る場所は与えられたが、狭い敷き布団が7枚用意されているだけなのである。無理をして1枚に3名ずつ交互に逆に寝ても、21名、おまけに両端は板壁である。そこに22名寝るというのだから並大抵ではない。ブツブツ文句を言いながらも、一応自分の居場所を決める。

 6時40分に私たちの夕食の順番が来て、食堂に集まる。山荘の責任者から次のような状況説明とお願いの言葉があった。「夏休みの最初の週末で登山のベストシーズンであり、こんばんは540名(定員150名)の宿泊者がいる。廊下、ロビーなど使えるところは全部宿泊のために使うことになる。お互いに狭い所で窮屈と思うが、事情を理解して我慢して欲しい」という趣旨であった。

 9時の消灯時間が来ても、「暑い!暑い!」の声がしきりに出ていたが、窓を開けてもらって、なんとか一夜を過ごすことができた。

 7月21日(4日目)の朝も快晴。5時30分から朝食、ご来光の撮影、旅の支度をして山荘を出発したのは6時10分であった。今日は北岳の八本歯のコルの方へトラバースして大樺沢二俣の雪渓を下山する。宿から北岳の方へ少し登って、八本歯のコルの方へ右折、美しいお花畑を進んでいると、道の少し下の方に猿の軍団を発見する。

 そこから水平のトラバースコースを進んで、北岳への別ルートの分岐点に到着したのは7時5分。そこには「八本歯のコルへ20分」の標識があった。「もう一度北岳へ登ってみるか」と冗談を言いながら休憩する。8時10分に八本歯のコルに到着。「北岳山頂へ40分」の標識があった。

     

 これからは急な下山道である。左手に大絶壁(バットレス)が立ちはだかっている。目を凝らすと、大岩のあちこちにロッククライミングをしている色とりどりの人影が見える。8時40分に大雪渓に到着する。長い大雪渓を下から登ってくる登山者の行列が続いている。私たちはこの急な雪渓を下るのだから大変である。折角持参したのだから、アイゼンを付けて、数名で下山を試みた。残りの者は山道を迂回する。

 後続の若者がアイゼンなしで雪渓に入って数メートル滑って転んだ。下から登っている登山隊のリーダーが危険だから雪渓から出るように注意した。私たちのリーダーやベテラン組はスイスイと下山していたが、私たちは不安なので、雪渓下りを止めて、9時10分に山道へ入った。山道といっても 注意しないと雪渓に滑り落ちるような狭い道である。10時頃大樺沢二俣近くでサンカヨウの白い花に出会った。

 10時30分に沢を渡って一休みする。これから何度か沢を渡って10時40分に白根御池小屋への分岐点に差し掛かる。このあたりには大きなウツギが多い。道の両脇の樹木にはオオカメノキ、ブナ、オヒョウ、サワグルテ、ウラジロモミ、カツラ、ハリキリなどの標識が見られる。自然観察を楽しみながら、登山口に到着したのは11時55分であった。広河原山荘で飲んだ800円の生ビールの味は今でも忘れられない。そこで仲間と一緒に昼食をとる。

 昼食後、ゆっくり休養をとり、2時にタクシーで南アルプス温泉ロッジへ向かい、2時間後に無事到着。その夜は何日分かの汗と疲れを温泉で流した。

 最終日の22日は、タクシーで甲府駅まで出て、10時過ぎの特急あずさ54号で新宿までの快適な旅。新宿散策では、高さ243mの都庁展望台に上る。そこで昼食をとった一行は、東京発14時過ぎのひかり127号で広島まで、それからこだま643号に乗り継いで、19時40分に無事徳山駅着。リーダーをはじめ、同行の山仲間のお陰で本当に素晴らしい山旅を楽しむことができ、良い思い出を作ることができた。

 

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